大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

浦和地方裁判所 平成11年(行ウ)27号 判決

原告

株式会社A

右代表者代表取締役

右訴訟代理人弁護士

武田清一

被告

所沢税務署長 村岡昭博

右指定代理人

松本真

須藤哲右

金谷滝夫

磯野宏

中沢信明

安部憲一

内田秀明

小野塚仁

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

1  被告が平成九年一二月一九日付けでした原告の平成五年分、平成六年分、平成七年分、平成八年分及び平成九年分の地価税の各更正処分のうち、平成五年分の課税価額一二億五三九五万〇九二三円、納付すべき税額〇円、平成六年分の課税価額一六億一五七万八二二一円、納付すべき税額三〇万四七〇〇円、平成七年分の課税価額一七億五九四九万一七八六円、納付すべき税額七七万八四〇〇円、平成八年分の課税価額二〇億九一八五万三七五円、納付すべき税額八八万七七〇〇円、平成九年分の課税価額一八億一四万六一五一円、納付すべき税額四五万二〇〇円を超える部分及び無申告加算税の各賦課決定を取り消す。

2  訴訟費用は、被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、建売、土地売買事業を営む資本金一〇〇〇万円の株式会社である。平成九年一二月一一日、平成五年分、平成六年分、平成七年分、平成八年分及び平成九年分(以下、右各年度を一括して「本件係争年度」という。)の地価税について、左記の「課税価額」欄及び「納付すべき税額」欄記載のとおりの各年度分の地価税申告書を被告に提出した(以下この申告を「本件申告」という。)。

年度 課税価格(円) 納付すべき税額(円)

平成五年 一二億五三九五万〇九二三 〇

平成六年 一六億〇一五七万八二二一 三〇万四七〇〇

平成七年 一七億五九四九万一七八六 七七万八四〇〇

平成八年 二〇億九一八五万〇三七五 八八万七七〇〇

平成九年 一八億〇〇一四万六一五一 四五万〇二〇〇

計   二四二万一〇〇〇

2  被告は、平成九年一二月一二日付けで、本件申告について、左記「無申告加算税の額」欄記載のとおりの無申告加算税の各賦課決定処分をした。

年度 無申告加算税の額(円)

平成五年 〇

平成六年 四万五〇〇〇

平成七年 一一万五五〇〇

平成八年 一三万二〇〇〇

平成九年 六万七五〇〇

計 三六万〇〇〇〇

3  次いで、被告は、平成九年一二月一九日付けで、本件申告につき、左記の「課税価格」欄及び「納付すべき税額」欄(いずれも単位円)記載のとおり各更正処分をし(以下「本件更正処分」という。)かつ、本件更正処分による増加税額につき、左記の「無申告加算税の額」欄(単位円)記載のとおりの無申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。

平成五年 課税価格 一七億九八〇一万三二六九

納付すべき税額 八九万四〇〇〇

無申告加算税の額 一三万三五〇〇

平成六年 課税価格 二三億九四八九万七三八二

納付すべき税額 二六八万四六〇〇

無申告加算税の額 三五万五五〇〇

平成五年 課税価格 三四億七七六八万九四〇八

納付すべき税額 五九三万三〇〇〇

無申告加算税の額 七七万二五〇〇

平成五年 課税価格 三三億五一三一万二八三八

納付すべき税額 二七七万六九〇〇

無申告加算税の額 二八万二〇〇〇

平成五年 課税価格 二五億四六七七万五〇一六

納付すべき税額 一五七万〇一〇〇

無申告加算税の額 一六万六五〇〇

(計 納付すべき税額 一三八五万八六〇〇

無申告加算税の額 一七一万〇〇〇〇)

4  原告は、本件更正処分及び本件賦課決定処分を不服として、平成一〇年二月一八日、被告に対し、異議申立てをしたが、被告は、同年六月三〇日付けで右異議申立てをいずれも棄却した。

5  そこで原告は、平成一〇年七月二八日、国税不服審判所長に対し、審査請求をしたが、国税不服審判所長は、平成一一年二月二三日付けで右審査請求をいずれも棄却する裁決をし、右裁決書は、同年三月二日、原告に送達された。

6  しかし、本件更正処分は、租税特別措置法(以下「措置法」という。)七一条の七(ただし、平成五年分については措置法七一条の四(平成六年法律第二二号による改正前のもの)、平成六年分及び平成七年分については措置法七一条の五(平成八年法律第一七号による改正前のもの)、平成八年分については措置法七一条の七(平成九年法律第二二号による改正前のもの)をいう。)第一項による特例(以下「本件特例」といい、本件特例に関する条項を引用する場合は、措置法七一条の七により、同条を摘示する。)の適用がされるべきであるにもかかわらず、右適用を否定し、地価税の課税価格を過大に認定した違法なものであり、本件賦課決定も本件更正を前提とし、違法であるから、いずれも取り消されるべきである。

よって、原告は、本件更正処分及び本件賦課決定処分の各取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1ないし4は認める。

2  同5中、裁決書の送達日は不知。その余は認める。

3  同6は争う。

三  被告の主張

1  本件更正処分

平成五年分ないし平成九年分の地価税の課税価格及び地価税の額は以下のとおりである。

(一) 平成五年分

(1) 課税価額 一七億九八〇一万三二六九円

右金額は、期限後申告書添付の土地等の明細書の課税価格に算入すべき価格欄の合計と同額である。

(2) 基礎控除の額 一五億円

右金額は、地価税法一八条一項一号ロに掲げる金額である。

(3) 基礎控除後の課税価格 二億九八〇一万三〇〇〇円

右金額は、右(1)の金額から右(2)の金額を控除した金額(国税通則法(以下「通則法」という。)一一八条一項の規定により千円未満の端数を切り捨てた後の金額)である。

(4) 地価税の額 八九万四〇〇〇円

右金額は、右(3)の金額に地価税法二二条に定める千分の三の税率を乗じて算出した金額(通則法一一九条一項の規定により百円未満の端数を切り捨てた後の金額)である。

(二) 平成六年分

(1) 課税価額 二三億九四八九万七三八二円

右金額は、期限後申告書添付の土地等の明細書の課税価格に算入すべき価額欄の合計と同額である。

(2) 基礎控除の額 一五億円

右金額は、地価税法一八条一項一号ロに掲げる金額である。

(3) 基礎控除後の課税価格 八億九四八九万七〇〇〇円

右金額は、右(1)の金額から右(2)の金額を控除した金額(通則法一一八条一項の規定により千円未満の端数を切り捨てた後の金額)である。

(4) 地価税の額 二六八万四六〇〇円

右金額は、右(3)の金額に地価税法二二条に定める千分の三の税率を乗じて算出した金額(通則法一一九条一項の規定により百円未満の端数を切り捨てた後の金額)である。

(三) 平成七年分

(1) 課税価額 三四億七七六八万九四〇八円

右金額は、期限後申告書添付の土地等の明細書の課税価格に算入すべき価額欄の合計と同額である。

(2) 基礎控除の額 一五億円

右金額は、地価税法一八条一項一号ロに掲げる金額である。

(3) 基礎控除後の課税価格 一九億七七六八万九〇〇〇円

右金額は、右(1)の金額から右(2)の金額を控除した金額(通則法一一八条一項の規定により千円未満の端数を切り捨てた後の金額)である。

(4) 地価税の額 五九三万三〇〇〇円

右金額は、右(3)の金額に地価税法二二条に定める千分の三の税率を乗じて算出した金額(通則法一一九条一項の規定により百円未満の端数を切り捨てた後の金額)である。

(四) 平成八年分

(1) 課税価額 三三億五一三一万二八三八円

右金額は、期限後申告書添付の土地等の明細書の課税価格に算入すべき価額欄の合計と同額である。

(2) 基礎控除の額 一五億円

右金額は、地価税法一八条一項ロに掲げる金額である。

(3) 基礎控除後の課税価格 一八億五一三一万二〇〇〇円

右金額は、右(1)の金額から右(2)の金額を控除した金額(通則法一一八条一項の規定により千円未満の端数を切り捨てた後の金額)である。

(4) 地価税の額 二七七万六九〇〇円

右金額は、右(3)の金額に措置法七一条(平成一〇年法律第二三号による改正前のもので以下同じ。)二項に定める千分の一・五の税率を乗じて算出した金額(通則法一一九条一項の規定により百円未満の端数を切り捨てた後の金額)である。

(五) 平成九年分

(1) 課税価額 二五億四六七七万五〇一六円

右金額は、期限後申告書添付の土地等の明細書の課税価格に算入すべき価額欄の合計と同額である。

(2) 基礎控除の額 一五億円

右金額は、地価税法一八条一項一号ロに掲げる金額である。

(3) 基礎控除後の課税価格 一〇億四六七七万五〇〇〇円

右金額は、右(1)の金額から右(2)の金額を控除した金額(通則法一一八条一項の規定により千円未満の端数を切り捨てた後の金額)である。

(4) 地価税の額 一五七万〇一〇〇円

右金額は、右(3)の金額に措置法七一条二項に定める千分の一・五の税率を乗じて算出した金額(通則法一一九条一項の規定により百円未満の端数を切り捨てた後の金額)である。

2  本件各賦課決定処分

原告の納付すべき本件係争年分に係る地価税の額は前記1(一)ないし(五)記載のとおりであるが、原告は、本件係争年分にかかる地価税の期限内申告書を提出しておらず、それについて通則法六六条一項に規定する正当な理由は存せず、また、過少に期限後申告したことについて、同条二項に規定する正当な理由も存しないから、原告は、新たに納付することとなった税額について、次のとおり無申告加算税を課せられることとなるから、本件各賦課決定処分は、いずれも適法である。

(一) 平成五年分の無申告加算税の賦課決定処分額 一三万三五〇〇円

右金額は、平成五年分の更正処分によって、原告が新たに納付すべき税額八九万円(通則法一一八条三項の規定により一万円未満の端数を切り捨てた後の金額)に通則法六六条一項に規定する一〇〇分の一五の割合を乗じて算出した金額であり、平成五年分の賦課決定処分額と同額である。

(二) 平成六年分の無申告加算税の賦課決定処分額 三五万五五〇〇円

右金額は、平成六年分の更正処分によって、原告が新たに納付すべき税額二三七万円(通則法一一八条三項の規定により一万円未満の端数を切り捨てた後の金額)に通則法六六条一項に規定する一〇〇分の一五の割合を乗じて算出した金額であり、平成六年分の賦課決定処分額と同額である。

(三) 平成七年分の無申告加算税の賦課決定処分額 七七万二五〇〇円

右金額は、平成七年分の更正処分によって、原告が新たに納付すべき税額五一五万円(通則法一一八条三項の規定により一万円未満の端数を切り捨てた後の金額)に通則法六六条一項に規定する一〇〇分の一五の割合を乗じて算出した金額であり、平成七年分の賦課決定処分額と同額である。

(四) 平成八年分の無申告加算税の賦課決定処分額 二八万二〇〇〇円

右金額は、平成八年分の更正処分によって、原告が新たに納付すべき税額一八八万円(通則法一一八条三項の規定により一万円未満の端数を切り捨てた後の金額)に通則法六六条一項に規定する一〇〇分の一五の割合を乗じて算出した金額であり、平成八年分の賦課決定処分額と同額である。

(五) 平成九年分の無申告加算税の賦課決定処分額 一六万六五〇〇円

右金額は、平成九年分の更正処分によって、原告が新たに納付すべき税額一一一万円(通則法一一八条三項の規定により一万円未満の端数を切り捨てた後の金額)に通則法六六条一項に規定する一〇〇分の一五の割合を乗じて算出した金額であり、平成九年分の賦課決定処分額と同額である。

3  本件特例の適用について

本件特例は、優良な住宅地及び住宅の供給を促進する目的で、その供給予定地である土地等の地価税の負担を軽減するために定められたもので、地価税の課税価格の計算において、都市計画区域内で主として住宅建設の用に供する目的で行われる本件特例一号ないし三号列挙の宅地の造成に関する事業(以下「優良な住宅地の造成事業」という。)を施行する者が有する土地等であって、その事業に係るものという要件を満たす場合には、課税価格に算入すべき価額は、その供給予定地である土地等の価額の五分の一相当額とするものである。

本件特例の適用を受けようとする宅地造成事業者は、地価税の申告に際して、本件特例の対策となる造成事業について、措置法施行令四〇条の一七所定の要件を満たす優良な住宅地の造成事業である旨の建設大臣の証明書、並びに宅地の造成に関する事業概要書及び設計説明書(以下、これらをあわせて「本件特例証明書類」という。)を添付しなければならないところ(措置法七一条の七第五項、租税特別措置法施行規則(以下「施行規則」という。)二四条の四第三項)、原告は、本件申告に際して、本件特例の適用申請をする必要な本件特例証明書類を添付しなかったのであるから、原告については、本件特例は適用されない。

四  被告の主張に対する原告の反論

本件においては、本件特例が適用されるべきである。

1  措置法は、本件特例の適用を受けるには、期限後申告書にその旨の記載をすべきであると定めており(措置法七一条の七第五項)、期限後申告の場合にも本件特例が適用されることは明らかである。

ところが、本件特例証明書類中、建設大臣の証明書の交付を受けるについては、建設省通達及びこれに基づく審査補助機関審査補助事務施行規則(以下、これを合わせて「通達等」という。)によると、建設大臣の右証明を受けようとする者は、原則として本件特例の適用を受けようとする年の六月一日までに、社団法人全国宅地建物取引業協会連合会その他所定の審査補助機関に所定の申請書を提出して証明の申請をすると定められている。そうすると、過年度分の期限後申告をする場合には、当該年度分の建設大臣の証明を得ることが手続上不可能であるため、過年度分の期限後申告書に、当該年度の建設大臣の証明書を添付することも当然不可能である。したがって、期限後申告については、建設大臣の証明書添付を要求する規定は無効で、申請書に建設大臣の証明書の添付は不要である。

また、宅地の造成に関する事業概要書及び設計説明書は、建設大臣の証明書と一体となって初めて存在意義を有する書面であるところ、証明書の添付が不要である以上、宅地の造成に関する事業概要書及び設計説明書も不要である。

2  原告は、本件特例の適用に関する建設大臣の証明を得ることができなかったので、これに代わるものとして、本件申告に際して、都市計画法二九条に規定される都市計画区域内における開発行為許可通知書の写し及び開発工事に関する工事の検査済証(以下「開発行為許可通知書等」という。)を提出したのである。右開発行為許可通知書等は、開発行為の許可の基準を示しており、事業概況書の記載事項に相当する記載がされているから、実質的に本件特例で要求される建設大臣の証明の基準を内包しているから、実質的に建設大臣の証明と同等のものである。さらに、原告は、すでに、設計説明書に相当する書面である宅地造成済みの土地についての区画の面積を記載した実測図も提出している。

課税庁としては、本件特例が適用される事案か否かについては、実体要件に従って審査すべきであり、形式的に関係書類の提出の有無で判断すべきでない。このように解しても、租税法律主義に反することになるものでないことは明らかである。したがって、本件においては、本件特例の適用を受けるに必要な特例証明書類の提出に相当する関係書類は提出されているというべきであり、本件特例が適用される実質的要件というべきである措置法七一条の七第一及び第二項が定める「政令で定めるところにより証明がされた」というべきであるから、原告については、本件特例が適用されるべきである。

五  原告の主張に対する被告の反論

1  措置法七一条の七第五項は、すでに当該年度分の建設大臣の証明書の交付を受け、優良宅地造成事業に該当する事業を行う者が、何らかの理由により当該年度分の地価税の納付期限内に申告をしなかった場合であっても、その年度分の期限後申告書に建設大臣証明書を添付することにより、本件特例の適用が受けられることを認めたものであるから、建設大臣の証明書の交付手続きを定めた前記通達と措置法の規定が矛盾するものではない。

また、原告は、平成五年分ないし平成九年分の建設大臣の証明を得ないまま各年度分の地価税の申告をせずに放置し、被告の調査により申告漏れがあることを指摘されてはじめて特例による控除の適用を持ち出しているのであり、このような事実経過に照らすと、信義則上も保護を与える理由を認めることができない。

2  本件特例は、本件特例証明書類を申告書に添付することを要求し、これをもって課税の明確、安定化を図っているのであるから、本件特例証明書類の代わりとして、その内容を実質的に包含している他の書類を添付したとしても本件特例の手続的要件を満たしたと言えない。

また、建設大臣の証明と開発行為の許可の審査基準は異なるのであって、開発行為の許可基準が建設大臣証明の審査基準を包含するとはいえないのであるから、実質的にも、開発行為許可通知書等の添付をもって、本件特例証明書類を添付したということはできない。

第三証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録に記載のとおりである。

理由

一  当事者間に争いのない事実、本件証拠(甲第九号証及び乙第二号証、第三号証(各枝番部分を含む)、第四号証の一ないし五、第六号証)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認めれる。

1  原告は、不動産の売買、仲介及び管理等を業とする株式会社である。

2  原告は、平成四年一一月二七日、所沢税務署に対し、課税価格を一四億六三六〇万二四三一円、控除の額を一五億円とする平成四年度分地価税の申告書(乙第二号証)を提出したが、平成五年度分以降の地価税の申告書を提出しなかった。

3  所沢税務署上席国税調査官清水能成(以下「清水上席調査官」という。)は、平成六年四月一日から平成七年三月三一日までの事業年度に係る原告の法人税の申告書に添付されていた右同日現在の賃借対照表には、原告の不動産商品及び土地勘定が合計五三億円と記載されていたことから、原告については、地価税の申告が必要であると判断した。

4  そこで、清水上席調査官は、原告に対し、平成七年八月一八日付けで、「地価税の申告等の御案内」及び「土地等の明細及びその利用状況などについてのお尋ね」と題する文書並びに地価税の申告書の用紙を送付したが、地価税の申告期間を経過しても、原告からは、何ら回答はなかったので、再度、平成七年一一月八日付けで「地価税の申告について」と題する文書を送付した。

また、平成八年になっても、原告からは依然として何らの回答もなかったことから、清水上席調査官は、同年五月ころ、原告経理部長乙と面会して、地価税の申告書やお尋ねの提出を促したが、原告は、これにも応じなかった。

所沢税務署は、原告に対し、同年八月一九日付けで「地価税の申告等の御案内」と題する書面、お尋ね及び地価税の申告書の用紙を送付したが、原告からは地価税の申告書の提出はなかった。

5  清水上席調査官は、平成九年四月ころ、上司であった統括国税調査官近藤正二から原告に対する地価税の調査を命じられ、原告の地価税の調査に着手し、乙に対し、原告の地価税の課税価格を計算するために必要な書類として、平成五年度以後の各年の一月一日現在における原告の所有する土地建物の在庫表等の、地価税の課税価格を計算するために必要な書類(以下「在庫表等」という。)を提出するように依頼し、同年六月一一日、原告の本店を訪れ、乙らに対して原告に地価税の納税義務が存するか否かを検討するために必要であるとして、在庫表等の提出を要求したところ、乙らはこれを承諾し、同年七月一日までに在庫表を含む関係書類を提出した。

清水上席調査官は、右提出を受けた在庫表等に基づいて、原告に対する平成五年度以降の地価税の課税価格の算定を行ったところ、各年度分ともに基礎控除の額である一五億円を超え、地価税の申告が必要であることが判明した。

6  所沢税務署は、平成九年分の地価税の申告についても、原告に対し、平成九年八月一九日付けで「地価税の申告等の御案内」等の書面を送付したが、原告は、申告期間内に地価税の申告書を提出しなかった。

7  清水上席調査官は、平成九年一一月二七日、在庫表等を基に計算した課税価格及び税額を記載した地価税の申告書の用紙(以下「被告計算税額付き申告書」という。)を持参して、原告の本店を訪れ、乙らに対し、右課税価格について説明し、本件係争年分の地価税について、各年度分とも課税価格が基礎控除の額を超えているので、期限後申告書を提出するよう指示し、被告計算税額付き申告書を渡した。

8  その後、乙から、清水上席調査官に対し、原告の地価税については本件特例の適用があるのではないかとの話しがあったため、清水上席調査官は、本件特例の適用を受けるためには建設大臣の証明書が必要であることを説明し、既に平成九年分の建設大臣の証明書の申請期間を経過しているので、右証明書の交付を受けることはできないのではないかということを話した。これに対し、乙から都市計画法の開発行為許可を受けているのであるから、本件特例が適用されるか否か検討してほしいとの申出があった。

そこで、清水上席調査官は、乙からの申出を検討したが、措置法等の定めから適用される余地はないと判断し、その旨を乙に回答した。

9  原告は、右回答に納得せず、平成九年一二月一一日、被告計算税額付き申告書を、本件特例を適用して計算した課税価格及び税額に訂正して、各年度分の期限後申告書とし、右申告書に開発行為許可通知書等の写しを添付して所沢税務署に提出した。このとき、本件特例証明書類は申告書に添付されていなかった。

二  原告は、地価税の申告書に建設大臣の証明書等の特例証明書類を添付しなかったが、過年度分の期限後申告の場合、手続上、建設大臣の証明を得ることが不可能であるから、期限後申告について、本件特例証明書類添付を要求するのは不合理であるから、期限後申告において本件特例を受ける場合に、本件特例証明書類添付を求める規定は無効であると主張する。

措置法七一条の七によれば、本件特例の適用を受けようとする宅地造成事業者は、地価税の申告書に所定の事項を記載し、かつ、法の定める規定に該当する旨を証する書類として大蔵省令で定める本件特例証明書類を添付することが求められており、同法施行規則二四条の四第三項は、大蔵省令で定める右書類は、建設大臣の証明をしたことを証する書類の写し、事業概要書及び設計説明書とすることが定められている。

ところで、地価税の課税時期は、その年の一月一日午前零時と定められていることから(地価税法二条四号)、本件特例の適用の対象となるべき優良な住宅地の造成事業等に係る分譲予定地か否かの判断も、同時期を基準として行うものと解すべきであるところ、地価税の申告は、その年の課税価格が基礎控除の額を超えるときは、その年の一〇月一日から三一日までの間に、税務署長に対して申告書を提出するものとされており(地価税法二五条)、通達等により、本件特例の適用を受けようとする事業者は、地価税の申告書に添付すべき特例証明書類の一つである建設大臣の証明書等の申請時期は、その年の六月一日までと定められているが、地価税の右課税時期と右申請時期にかんがみると、本件特例の適用を受けようとする事業者が、右同日までに証明書の交付を求めるのに必要な関係書類等を取りそろえることが不可能であると認めることはできないし、また、建設大臣の証明書等を交付するための審査に必要な期間等を勘案すると、建設大臣の右証明の申請時期をその年の六月一日までとしたことが、格別に不合理であると認めることはできない。

したがって、期限後申請の場合、建設大臣の証明書等の交付を受けることができないとして、建設大臣の証明書等の添付を求める規定は無効であり、本件特例の申請に際して、右証明書等の添付は不要であるとする原告の主張は、理由がない。

三  原告は、本件申告は、いわゆる期限後申告であり、期限後申告の場合には、特例証明書類としての建設大臣の証明書等の交付を得ることはできないので、これに代わるものとして、都市計画法二九条に定める都市計画区域内における開発許可通知書の写し及び開発工事に関する工事の検査済証(開発行為許可通知書等)を提出したが、被告はこれにより原告には本件特例の適用を受けるに必要な条件を具備することを判断することが可能であったと主張する。

措置法は、本件特例の適用を受けようとする宅地造成事業者は、地価税の申告書に大蔵省令で定める本件特例証明書類を添付することを求めており、同法施行規則二四条の四第三項は、大蔵省令で定める書類として建設大臣の証明をしたことを証する書類の写し、事業概要書及び設計説明書を定めている。したがって、本件特例の適用を受けようとする者は、地価税の申告に際しては、建設大臣の証明書類等の本件特例証明書類を具備することが必要であるといわざるを得ない。

本件特例は、優良な住宅地及び住宅の供給を促進するために、その供給予定地である土地等の地価税の負担を軽減する規定であり、実体的要件として、優良な住宅地の供給に寄与する一団の宅地の造成に関する事業で、措置法施行令四〇条の一七第一項に掲げる要件を満たすものであることが要求され、同法施行規則は、建設大臣においてその実体的要件の具備を証することを求めたもので、本件特例の適用に当たり、本件特例の趣旨を全うし、かつ地価税の明確・安定的な課税を実現するために、優良な住宅地の造成事業に係る分譲予定地等であることについての判断を行う必要性があるというべきところ、課税庁がこれを判断するには困難を伴うことから、地価税課税及び本件特例適用の統一的運用を図るために、宅地の造成事業に関しての主管行政庁である建設省の建設大臣により、優良な住宅地の造成事業等に係る分譲予定地等であることについて証明してもらうこととしたのである。したがって、本件特例は、本来課せられるべき税負担を特別の政策的配慮から軽減する特定を制度として設けられたものであるから、税負担の公平の見地と地価税課税及び本件特例適用の明確・安定かつ統一的運用を図るために、その解釈適用は厳格にされるべきであり、法は、申請者の事情によって建設大臣の証明を他の関係書類によって補完することを予定し、許容していると解することはできないというべきである。

したがって、原告が、建設大臣の証明に代わるものとして開発行為許可通知書等を提出したのであるから、被告はこれらによって原告の造成事業が本件特例を受け得るものであると判断し、原告について本件特例を適用すべきであるとする原告の前記主張は、採用できない。

原告は、前記認定のとおり、所沢税務署から、平成五年以降の地価税について、被告計算税額付き申告書の交付を受け、期限後申告を行うようにとの示唆を受けるに及んで、初めて本件特例が適用されるべきであるとして、本件特例に基づく減税措置を求めるに及んだのであるから、この間、原告の実施した宅地の造成事業について、本件特例が適用されることを予定していたと認めることはできないし、建設大臣の証明書類等の件特例証明書類の申請を通達等の定める時期までに行うことができなかったことがやむを得ないとする特段の事由の存在を認めることもできない。

したがって、原告の前記主張は、採用できない。

四  また、原告は、本件においては、信義則上、本件特例が適用されるべきであると主張する。

前記認定した事実によると、原告は、平成四年度における地価税の申告の課税価格が基礎控除未満であり、地価税の課税がされなかったことから、平成五年度以降の地価税については申告をしなかったが、所沢税務署は、平成七年度分の地価税については申告が必要であるとして、関係書類を送付したが、納税期限内に申告はされなかったこと、平成八年度についても、地価税の申告等の案内に関する書面を送付したが、原告からは期限内に申告はされなかったこと、そこで、所沢税務署は、平成九年四月ころ、原告の地価税の調査に着手し、原告から在庫表等の書類の提出を求め、これに基づいて検討をしたところ、平成五年度分からの地価税を納付をする必要があることが判明したこと、所沢税務署は、平成九年分の地価税についても地価税の申告等の案内に関する書面を送付したが、原告は、申告期限内に同年分の地価税の申告をしなかった、所沢税務署は、同年一一月二七日、原告に対して、被告計算税額付き申告書を交付して、本件係争年分までの地価税の納付について期限後申告書を提出することを指示したこと、原告は、その後、清水上席調査官に対し、本件特例の適用があるのではないかとして、その旨の検討方を依頼したこと、清水上席調査官は、右依頼に基づいて調査をしたが、本件においては、本件特例証明書類の提出がないので、本件特例の適用はない旨を回答したことの各事実が認められる。右事実に照らすと、原告は、本件係争年分の建設大臣の証明を得ないまま各年度分の地価税の申告をせずに放置し、所沢税務署の調査により右各年度の地価税について申告漏れがあることを指摘され、被告計算税額付き申告書の交付を受けて、本件係争年分までの地価税の納付について期限後申告書を提出することを求められて、はじめて本件特例による控除の適用の有無の検討を清水上席調査官に依頼したというものであり、また、右申告漏れが指摘された本件係争年分の宅地の造成事業による地価税が、基礎控除未満であるとすることを具体的かつ明確に証する関係書類も存しないのであるから、被告が、本件更正処分をしたことが、信義則に反すると認めることはできない。

五  被告が、原告に対し、本件更正処分及び本件賦課決定処分をしたことは、当時者間に争いがなく、原告が、本件特例に基づく減税措置を受けることができないことは、前示のとおりである。そうすると、原告が納付すべき本件係争年分までの地価税が、被告の主張三1(一)ないし(五)の各(1)課税価格記載のとおりであることは、原告も明らかに争わないところである。そうすると、右課税価格から基礎控除分を控除した後の課税価格に地価税二二条の定める税率を乗じて算出された額が、原告の納付すべき地価税となるから、これに従った被告の本件更正処分は、適法である。

また、原告の期限後申告を相当とする事由も存しないことも、前示のとおりであるから、原告は、通則法の定める無申告加算税を納付すべきところ、右無申告加算税は、原告が新たに納付すべき税額に基づき、通則法一一八条三項、六六条一項により算出される額であるから、被告の本件賦課決定処分は、適法である。

六  右のとおりであるから、原告の本訴請求は理由がないので、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 都築民枝 裁判官 中野宏一 裁判長裁判官星野雅紀は、転補につき、署名押印することができない。裁判官 都築民枝)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例